投稿日 2023年07月11日
更新日 2023年07月11日

最低限押さえておくべきジストニアの基礎(ジストニアとは何か)

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ジストニアとは何か、簡単に説明せよ、とご依頼をいただきました。ジストニア(ジストニー)は1911年にOppenheimによって「筋緊張の亢進と低下との混在」として提出された用語ですが、以後数次にわたる定義の改訂にもかかわらず、一読「そういうことか」と理解できた試しはありません(よね?)。

最近では診断のアルゴリズムが海外から提案されていて、それは次の論文のように

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/30269178/pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

感覚トリックがあれば大体ジストニア、ということです。ただ見逃してはならないのは、感覚トリックの有無を言う前に「ジストニアみたいな症状がある」という前提があることで、おいおい、となります。ここの部分をクリアしなければなりません。上のアルゴリズムでは、感覚トリックがない例では除外診断になってしまうのです。そして感覚トリックは確かに特異性の高い所見ですが、残念ながら感度(有症率)が不十分です。

ジストニアにもっとも本質的な特徴は何でしょうか。

1. ジストニアのもっとも本質的な特徴はオーバーフロー現象(overflow phenomenon)だと思います。つまり何らかの随意運動を行う際に、それに関係のない筋肉が不随意収縮する、それによって随意運動を(多くは)妨げる。安静時に見られるジストニアも同様です。起きている人間が、全身の骨格筋をまったく動かさない、ということはありません。どこかを動かしたらオーバーフロー現象でジストニアがどっと出る。これが安静時のジストニアです。

2. もう一つの本質的な特徴は定型性(fixed pattern)です。程度は違えどいつも同じパターンの異常が出る。右向く人は明日も右向く。書字で中指が伸展する人は明日も同じ。複数のパターンを持つ人や、病歴が長くなると徐々に変化する人はあります。しかし、これがクルクルと変わる人は機能性(心因性)を疑います。

3. ジストニアには色々なnon-motor symptomsも出ますが、中核は運動症状です。通常、運動症状がないとジストニアとは診断できません(ジストニアではない、と断言していいかは別の話です)。

この3つを押さえればいいのです。「定型的な」「異常運動・異常姿勢」が「当該運動と関係ない筋肉に現れている」ことを確認してください。これをまとめて

Patterned motor overflow

と言います。もし私の提唱するnegative dystonia(開瞼[眼]失行に代表されます)を仲間に入れてくださるなら、overflowとunderflow(もしくはnon-flow)とを合わせた造語malflowを使って、

Patterned motor malflow

と覚えてください。この3要素が全部揃っている骨格筋の不随意収縮症候・症候群・疾患をジストニアと言います。文献は次のとおりです。

https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/28735649/pubmed.ncbi.nlm.nih.gov

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