ペンフィールド時代から、側頭葉てんかんの術後に発作が残存する症例の中に島葉(Insula)を起源とするてんかんが存在する可能性が示唆されていました。しかし、定位的頭蓋内脳波(SEEG)が無かった時代には、シルビウス裂奥深くの島葉から生じている発作を直接捉えることは困難でした。そのため、とても長い年月の間、島葉てんかんの存在は忘れ去られ、あたかも側頭葉てんかん・前頭葉てんかん・頭頂葉てんかん・後頭葉てんかんの4つの病型しか存在しないように思われてきました。成書を読んでも島葉てんかんに関する記述がほぼ皆無なのはそのためです。
SEEGで島葉を検索する技術が確立した1990年代以降、島葉てんかんの存在が再認識されるようになりました。2004年にJean Isnard先生らが島葉起源の発作症候の特徴を報告して以来、島葉てんかんに関する知識は飛躍的に発展しました。
島葉てんかん(Insular lobe epilepsy)は、痛覚(painful seizure※)や喉頭絞扼感(laryngeal constriction)などの特有の発作症候を呈することが知られていますが、そのような分かりやすい症例に出会うことは稀です。実際には、側頭葉や前頭葉などに発作波が伝播することにより、意識減損や過運動症状が前景となってしまい、側頭葉てんかんや前頭葉てんかんと間違われやすいケースが多く存在します。そのため、島葉てんかんは"Great mimicker"と呼ばれています。
SEEGの時代の今、前頭葉/側頭葉/頭頂葉てんかんの症例で頭蓋内脳波を検討される場合には、島葉てんかんの可能性がないか必ず考慮する必要があります。
以下は、島葉てんかんについての初めての教科書です。島葉てんかんの権威であるIsnard先生(私の恩師)が中心になってまとめられました。
Insular Epilepsies
Nguyen, D., Isnard, J., & Kahane, P. (Eds.). (2022). Insular Epilepsies. Cambridge: Cambridge University Press. doi:10.1017/9781108772396
(☆☆☆貴重な発作時の動画も収録されています☆☆☆)
僭越ながら、私が担当したChapterについても紹介させていただきます:
睡眠関連運動亢進(過運動)てんかん(Sleep-related hyperkinetic (hypermotor) epilepsy, SHE)において、特にMRI-negativeの場合には島葉てんかんの可能性を考えることは欠かせません。
Insular-Origin Seizures with a Hypermotor Presentation
Hagiwara, K., Gibbs, S., Rheims, S., & Nobili, L. (2022). Insular-Origin Seizures with a Hypermotor Presentation. In D. Nguyen, J. Isnard, & P. Kahane (Eds.), Insular Epilepsies (pp. 118-133). Cambridge: Cambridge University Press. doi:10.1017/9781108772396.012
※Painful somatosensory seizureはとても稀な発作型ですが、極めてlocalizing valueが高い症状です。ご興味があれば以下の記事もご参照下さい。
https://www.medixpost.jp/articles/7b723689-cc66-4e9c-99be-1bdc4d4c7d93www.medixpost.jp
