■はじめに
Medixpostの主催者の方から,TMA症候群について何か書くようにとお誘いがありました.以下にTMA症候群について解説いたします.
TMA症候群とは「Transient myoclonic state with asterixis in elderly patients」の頭文字をとったものです.私たち天理よろづ相談所病院脳神経内科のグループが,7症例を集積して,新しい症候群として1992年に発表しました1).以後,日本からは相当数の報告がありますが,諸外国からはいまだにありません.
この論考では,はじめに,(その1)として,TMA症候群の解説を行います.そのあとで,(その2)として,本症候群におけるミオクローヌスの様態とアステリクシスについて解説します.最後に,(その3)として,TMA症候群の海外での認知状況について,簡単な報告をさせていただきます.
■TMA症候群の特徴:
(1)一過性のミオクローヌス状態(ミオクローヌスが持続的に出現している状態)が,慢性疾患によってchronically illになっている高齢の方に起こります.ミオクローヌスと同時にアステリクシスを認めることが多く,これが病名に「asterixis」が入っている理由です.通常,この状態は2-3日続いて後遺症なく治癒します.今のところ原因は分かっていません.
(2)発症は急性ですが突発するのではなく,数時間の間に徐々に増悪してゆきます.発症の誘因は,何もないことが多いのですが,中に,尿路感染や肺炎,感冒様症状などを契機として発症してくることがあります.
(3)ミオクローヌスは全身の多巣性ミオクローヌスで,安静時から見られます.個々のミオクローヌス放電の持続時間は,近位筋で約50 msec,遠位筋で約25 msecです.運動で若干増強しますが,感覚刺激などで誘発されることはありません.顔面下部や頸部,両側上肢優位におこり,強いと下肢に及びます.下肢に強くでると歩行が困難になります.
(4)ミオクローヌスとアステリクシス以外に有意な症状はありません.明らかな意識障害はなく,見当識は保たれ,種々の口頭指示に対しても適切な応答が得られます.意識障害がないため,「(体全体が)ピクピク震える」と自ら訴えて受診して来られます.眼球運動は正常でopsoclonusはなく,失調症状や自律神経障害も見られません.感染症を誘因として発症してくる症例以外では,発熱を認めることもありません.なお,発語は震えのため幾分聞き取りにくくなることがありますが,明らかな構音障害はありません.
(5)ジアゼパムやクロナゼパムが,ミオクローヌスにもアステリクシスにも有効ですが,クロナゼパムの方が特効的に効果を発揮するという報告がいくつかあります.1回内服させただけで,1時間後には不随運動がなくなったとする報告がありました2).なお,薬剤を投与しなくても,自然治癒する症例が存在すると思われます.
(6)一旦,治まると,ジアゼパム等を中止してもすぐに再発することはなく治癒します.しかし,中には再発する症例があります.年1-2回,尿路感染の度にTMAを再発していた方がおられました.
(7)脳波では,非特異的な不規則化や背景波の軽度の徐波化を認めますが,てんかん型異常波(epileptiform abnormality)は見られません.
以上,TMA症候群は,ミオクローヌスとアステリクシスのみを呈し,それ以外の症状を認めない良性疾患です.救急外来を受診することが多いと思われ,若い先生方には知っておいて頂きたい病態です.初診時は,薬剤誘発性のミオクローヌスや代謝性障害によるアステリクシス等を慎重に鑑別する必要があります.鑑別に当たっては,意識障害の有無が重要な鑑別点の1つになるように思います.
なお,脳梗塞や脳出血など脳器質性疾患で,片側だけにアステリクシスが出ることがあることも覚えておいてください.私の経験では,視床出血で見ることが多いように思います.
文献
1) 1)Hashimoto S, Kawamura J, Yamamoto T, et al. : Transient myoclonic state with asterixis in elderly patients: a new syndrome? J Neurol Sci, 109:132-139, 1992.
2) Doden T, Sato H, Hashimoto T: Clinical characteristics and etiology of transient myoclonic state in the elderly. Clin Neurol Neurosurg, 139:192-198, 2015.
