救急全般、脳神経外科領域、てんかんおよび外傷全般を診療し、様々な研究を行っています

このたびは、Medixpost様より論文紹介の機会を賜り、心より御礼申し上げます。日本医科大学の恩田秀賢と申します。
今回は、2025年2月に『Epilepsia Open』誌に掲載されました論文「Early rehabilitation and improved outcomes in patients with status epilepticus: Evidence from cases presenting to the emergency department」についてご紹介いたします。
DOI： 10.1002/epi4.70017
本研究は、てんかん重積状態（status epilepticus：SE）の急性期治療において、集中治療室（ICU）入室後24時間以内に早期リハビリテーションを導入することが、患者の機能的転帰を改善し得るかを検討したものです。
SEは神経集中治療における最重症の病態のひとつであり、治療後も意識障害や身体機能低下が長期にわたり残存することが少なくありません。従来、SE患者に対しては、重度の意識障害や痙攣直後の脳機能低下を理由に、リハビリ介入が後回しにされることが一般的でした。
先行調査として、2011年から2022年までにSEで搬送された症例を対象に検討したところ、65歳以上の高齢者において自宅退院が可能となったのはに46％とどまり、半数以上の症例が施設や療養型病院への転院を余儀なくされていました。予防医療の強化も重要ですが、救命救急センターにおいてこのような転帰を改善するための手段を模索する中、2022年より「早期離床・リハビリテーション加算」が診療報酬上で算定可能となったことを契機に、どのような全身状態（例：気管挿管下で人工呼吸管理中）であっても早期のリハビリ介入が予後に寄与するのではないか、という臨床的疑問（CQ）に基づき、本研究を実施いたしました。
対象は、日本医科大学病院に搬送されたSE患者1,039例（2011年～2023年）であり、2022年以降に早期リハビリテーションを導入した「介入群」と、それ以前の「非介入群」とを比較しました。主要評価項目は、退院時のGlasgow Outcome Scale（GOS）におけるスコア5（完全自立）とし、臨床的に有意義な予後指標として設定しました。
その結果、早期リハビリ群ではGOS 5の到達率が有意に高く、死亡率も全体で2.5％と低率でした。特に、四肢の可動性維持、せん妄や廃用症候群の予防といった点で、早期リハビリ介入が重要な役割を果たしたと考えられます。
まず、SE患者において意識障害が持続していることを理由にリハビリ介入を遅らせるのではなく、入室後24時間以内の早期介入が十分に効果を持つことが示され、ICUにおけるリハビリ戦略の見直しが求められます。また、医師・看護師・リハビリスタッフが早期から緊密に連携することにより、患者の転帰を大きく改善できる可能性が示唆されました。本研究の成果は、以下のように臨床現場での応用が期待されます。
 
今後は、より重症な症例や高齢者を含めた前向き研究、ならびに具体的なリハビリ介入方法（理学療法士、作業療法士、言語聴覚士によるアプローチの組み合わせ、介入時間、内容など）に関する検討を進めることで、SE急性期治療におけるリハビリテーションの標準化がさらに進むことを期待しています。

てんかん重積状態患者における早期リハビリテーションと転帰改善：救急搬送症例に基づく検討

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