投稿日 2024年06月13日
更新日 2024年08月07日

4つのDOACの使い分け① 〜大規模臨床試験(ワルファリンとの比較)〜

はじめに

脳卒中関連で需要のあったテーマの1つとして挙げられておりました「4つのDOACの使い分け」について,調べる機会がありましたので,私見も含まれますが述べさせて頂きたいと思います.

長文となってしまったため,3回に分けて記事にさせて頂く予定です.

2011年に直接作用型経口抗凝固薬(DOAC)が登場して以来,従来のワルファリンに代わる存在として,広く使用されております.メタ解析でもワルファリンを上回る有効性・安全性が示され(Ruff CT, et al. Lancet 2014; 383: 955-962.),非弁膜症性心房細動(NVAF)による心原性脳塞栓症の一次予防・二次予防の抗凝固療法としてDOACが脳卒中治療ガイドライン2021でも推奨されているのはご承知のところだと思います.

現在,本邦では4種類のDOAC(直接トロンビン阻害薬のダビガトラン,直接作用型第Xa因子阻害薬のリバーロキサバンアピキサバンエドキサバン)がNVAF患者における虚血性脳卒中及び全身性塞栓症の発症抑制に対して使用可能となっております.

以下に各薬剤の主な特徴を列挙致しました.

ダビガトラン(プラザキサ®):唯一の直接トロンビン阻害薬.消化管から吸収されて活性代謝物となり速やかに血中濃度が上昇する,経口プロドラッグ製剤.血中濃度半減期は12-17時間,最高血中濃度到達時間は約2時間.約80%が腎臓から排泄されるため,腎機能障害患者,高齢者等では用量調節が求められる.薬物相互作用は少ないが,P糖蛋白と相互作用を有する.1日2回投与.

リバーロキサバン(イグザレルト®):強力で選択的・可逆的なXa阻害薬. 生物学的利用率は80%,血中濃度はおよそ3時間でピークを迎え,半減期は若い人で5-9時間,高齢者で11-13時間.約66%が腎臓から,残りはCYP3A4やCYP2J2による肝臓での代謝を経て,胆汁・糞便経路に排泄される.そのため,腎機能障害患者(ClCr 15-49mL/min)では血中濃度が上昇するために減量が必要である.また,マクロライド系化合物やケトコナゾールなどのCYP3A4阻害物質と薬物相互作用があることに注意を要する.1日1回投与.

アピキサバン(エリキュース®):強力で選択的・可逆的なXa阻害薬.50%以上が消化管から吸収され,血中濃度のピークは約3時間で得られる.反復服用では,最終半減期は8-15時間である.70%程度がCYP3A4等により肝臓で代謝され, 約25%は腎臓を通して,残りは胆道・糞便経路に排泄される.80歳以上,体重60kg以下,血清クレアチニン1.5mg/dL以上のうちの2つ以上を満たす場合やアゾール系抗真菌薬,HIVプロテアーゼ阻害剤との併用例は減量が必要である.1日2回投与.

エドキサバン(リクシアナ®):強力で選択的・可逆的な Xa 阻害薬.吸収は速やかで,血中濃度は約1-2時間でピークに達する.主に腎臓から排泄され,半減期は9-11時間である.体重(60kg以下),腎機能(ClCr 15-50mL/min),併用薬に応じて減量が必要である.出血リスクが高い高齢(80歳以上)の患者では,年齢,患者の状態に応じてさらに減量できる.1日1回投与.

いずれの薬剤においても心房細動による塞栓症予防と安全性に関するエビデンスが確立しておりますが,これから紹介するエビデンスレベルの高い大規模なランダム化比較対照試験(RCT)はいずれもワルファリンと比較したもので,DOAC同士の使い分けに関してはエビデンスに乏しいのが現状です.よって,どのDOACを選ぶべきかは自分も含めて悩まれている方が多いと思いますので,参考となる文献を紹介しつつ自分なりの選び方を紹介させて頂きます.

まず最初は,各薬剤が承認に至ったワルファリンとのランダム化比較対照試験(RCT)について簡単に述べさせて頂きます.

ダビガトラン(プラザキサ®)

RE-LY試験(Connolly SJ, et al. N Engl J Med 2009; 361(12): 1139-1151.)

脳卒中リスク(脳卒中・一過性脳虚血発作・全身性塞栓症の既往,左室駆出率40%未満,症候性心不全(NYHAⅡ度以上),75歳以上,65歳以上74歳以下の糖尿病・高血圧・冠動脈疾患のいずれか1つ以上)のあるNVAF患者18,113例(日本人326例を含む)を対象にダビガトラン150mg×2回/日群,同110mg×2回/日群、ワルファリン(PT-INR 2.0-3.0,70歳以上の日本人は2.0-2.6)群に無作為に割り付けて行われた試験です.

脳卒中・全身性塞栓症の発現率は,ワルファリン群が1.69%/年だったのに対し,ダビガトラン110mg群は1.53%/年で,相対リスクは0.91(非劣性P<0.001)と非劣性が示されました.同150mg群は1.11%/年で,相対リスクは0.66(優越性P<0.001)と有意に低下しておりました.

重大な出血性イベントの発現率については,ワルファリン群が3.36%/年だったのに対し,ダビガトラン110mg群は2.71%/年(P=0.003)と有意に低い結果でしたが,同150mg群は3.11%/年(P=0.31)とワルファリンと同等の発現率でした.

リバーロキサバン(イグザレルト®)

ROCKET-AF試験(Patel MR, et al. N Engl J Med 2011; 365(10): 883-891.)

心不全,高血圧,75歳以上,糖尿病のうち2つ以上のリスクを有する,又は虚血性脳卒中・TIA・全身性塞栓症の既往を有するNVAF患者14,264例をリバーロキサバン群(20mg,CLCr 30-49mL/minは15mgに減量)とワルファリン群(目標PT-INR:2.0-3.0)に無作為に割り付けて行われた試験です.

脳卒中と全身性塞栓症の発現率はリバーロキサバン群 1.7%/年,ワルファリン群 2.2%/年となり,リバーロキサバンのワルファリンに対する非劣性が示される結果になりました(ハザード比 0.79 [95%CI 0.66-0.96],非劣性マージン 1.46,p<0.001).

重大な出血又は重大ではないが臨床的に問題となる出血の発現率は,リバーロキサバン群 14.9%/年,ワルファリン群 14.5%/年,とリバーロキサバンのワルファリンに対する優越性は示されませんでした(ハザード比 1.03[95%CI 0.96-1.11],p=0.44).

J ROCKET-AF試験(Hori M, et al. Circ J 2012; 76(9): 2104-2111.)

ROCKET-AF試験を日本人に合わせた用量で日本人に対して行われた試験となります.

心不全,高血圧,75歳以上,糖尿病のうち2つ以上のリスクを有する,又は虚血性脳卒中・TIA・全身性塞栓症の既往を有する日本人NVAF患者 1,280例をリバーロキサバン群(15mg,CLCr 30-40mL/minは10mgに減量)とワルファリン群(目標PT-INR<70歳:2.0-3.0,≧70歳:1.6-2.6)に無作為に割り付けて行われた試験です.

脳卒中と全身性塞栓症の発現率はリバーロキサバン群 1.26%/年,ワルファリン群 2.61%/年となり,リバーロキサバン群で低いという結果になりました(ハザード比 0.49[95%CI 0.24-1.00],p=0.050).

重大な出血又は重大ではないが臨床的に問題となる出血の発現率は,リバーロキサバン群 18.04%/年,ワルファリン群 16.42%/年,とリバーロキサバンのワルファリンに対する非劣性が示されました(ハザード比 1.11[95%CI 0.87-1.42],非劣性マージン 2.0,p<0.001).

アピキサバン(エリキュース®)

ARISTOTLE試験(Granger CB, et al. N Engl J Med 2011; 365(11): 981-992.)

脳卒中のリスク因子(75歳以上,脳卒中・一過性脳虚血発作・全身性塞栓症のいずれかの既往歴,3ヶ月以内の症候性うっ血性心不全または左室駆出率40%以下の左室機能不全,糖尿病,薬物治療を要する高血圧)を1つ以上有する18歳以上のNVAFまたは心房粗動患者18,201例(日本人336例を含む)をアピキサバン群(5mg 1日2回,80歳以上・体重60kg以下・血清クレアチニン1.5mg/dL以上の3項目のうち2項目以上を満たす患者は2.5mg 1日2回)とワルファリン群(目標PT-INR 2.0-3.0,70歳以上の日本人では2.0-2.6)に無作為に割り付けて行われた試験です.

脳卒中または全身性塞栓症の発現率は,アピキサバン群 1.27%/年,ワルファリン群 1.60%/年であり,アピキサバン群で有意に低くなりました(ハザード比 0.79[95%CI 0.66-0.95],p=0.0114).虚血性脳卒中の発現率は,アピキサバン群 0.97%/年,ワルファリン群 1.05%/年であり,有意差はありませんでした(ハザード比 0.92[95%CI 0.74-1.13],p=0.4220).出血性脳卒中の発現率は,アピキサバン群 0.24%/年,ワルファリン群 0.47%/年と,アピキサバン群で有意に低いという結果でした(ハザード比 0.51[95%CI 0.35-0.75],p=0.0006).

重大な出血性イベントの発現率は,アピキサバン群 2.13%/年,ワルファリン群 3.09%/年であり,アピキサバン群で有意に少ないという結果でした(ハザード比 0.69[95%CI 0.60-0.80],p<0.0001).

エドキサバン(リクシアナ®)

ENGAGE AF-TIMI 48試験(RP Giugliano, et al. N Engl J Med 2013; 369(22): 2093-2104.)

CHADS2スコアが2点以上の非弁膜症性心房細動患者を1:1:1の割合で,ワルファリン群7,036例(目標PT-INR),エドキサバン60mg群7,035例,エドキサバン30mg群7,034例に無作為に割り付けて行われた試験です.腎機能障害(ClCr 30-50 mL/min),低体重(体重60kg以下),および一部のP-糖タンパク質阻害剤を併用している患者では,エドキサバンの投与量を半量としております.

エドキサバン60mg群における脳卒中および全身性塞栓症の発現率は1.18%/年,ワルファリン群で1.50%/年であり,ワルファリンに対する非劣性が示されました(ハザード比 0.79[97.5%CI 0.63-0.99],p<0.001).

エドキサバン60 mg群における重大な出血の発現率は2.75%/年,ワルファリン群で3.43%/年であり,ワルファリンと比較して重大な出血のリスクを20%低減させ,ワルファリンに対する優越性が示されました(ハザード比 0.80[95%CI 0.71-0.91],p<0.001).

まとめ

以上,すべての大規模臨床試験が,適切にPT-INRをコントロールされたワルファリンを対照群とするRCTとなっております.対象患者やエンドポイントは各試験で異なっていることもあり,結果を直接比較することはできませんが,参考までにまとめてみました.

有効性(脳卒中および全身性塞栓症):

ダビガトラン 300mg/日,アピキサバンはワルファリンを上回る優越性,ダビガトラン 220mg/日,リバーロキサバン,エドキサバンはワルファリンとの非劣性が示された.

安全性(重大な出血):

ダビガトラン 220mg/日,アピキサバン,エドキサバンはワルファリンを上回る優越性,ダビガトラン 300mg/日,リバーロキサバンはワルファリンとの非劣性が示された.

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