MSの疾患修飾薬の副作用と対応方法について、最終回は、近年出番の増えたHigh efficacy DMDに相当する2剤の生物学的製剤についてです。
【ナタリズマブ（タイサブリ®）】
① PML
分子標的薬であるナタリズマブは副作用がそれほど多くない薬剤だと思いますが、最大の懸念点がJCVによるPMLです。同じくJCVによる小脳顆粒細胞障害（granule cell neuronopathy：GCN）も頻度不明ですが報告されています。ナタリズマブ関連PMLについては、本サイトでも田中正美先生が投稿いただいておりますので、そちらも是非ご参照ください。
個人的には臨床的に重要なのは以下の４点かと考えています。
1つ目は症例の蓄積により，PML 発症のリスク因子が明らかにされていることです。SID（standard interval dosing）である4週毎に投与した場合の話ではありますが、リスク因子としては「抗JCV 抗体陽性（およびJCV抗体インデックス値の高値）」、「２年以上のナタリズマブ投与歴」「ステロイドを除く過去の免抑制剤使用歴」の3があり、これらの因子により層別化されたPMLの推定発現率が報告されています。推定PML発症率は、抗体陰性例では0.07/1000人ですが、JCV抗体インデックス値&gt;1.5かつ投与25ヶ月以降では発症リスクは大幅に上昇し、61ヶ月以上の投与では10/1000人にまで増加します。
2つ目はEID（extended interval dosing）と呼ばれる投与間隔の延長（効果維持には8週未満までが推奨）により、PMLリスクを減じられる可能性が示されていることです。毎年AANでは、EIDに相当する年間ナタリズマブ投与数10回以下の患者さんの追跡調査が報告されていて、2024年のデータでは症例数は少ないものの10年を越えるまでPML発症がありませんでした（もちろん、10年間の投与を推奨するものでは決してありません）。なお、治療効果についてはEIDの劣勢を示すエビデンスはこれまでに報告されていません。自施設ではこれまで、基本的には投与開始時からEIDで投与を行い、JCV陽性の患者さんには投与5年目をめどに他剤への変薬をご相談していました。
直近のNeurology誌に東京都立駒込病院の脳神経内科　横手先生からの症例報告で、54歳女性、 EDSS 3.0、JCV抗体インデックス値 3.11の患者さんが、ナタリズマブ14投後にPMLを発症した報告があります（Neurology. 2024 Oct 8;103(7):e209874. doi: 10.1212）。当初からEID投与が行われていたと考えても治療開始2年以内にPMLに至っており、症例の背景の詳細（免疫抑制剤の使用歴や併存疾患、前治療、併用薬などなど）はわからないので一概には言えませんが、本例のようにJCV抗体インデックス値が高い患者さんにはより早期の変薬を検討した方がよいかとも考えています。
3つ目は抗JCV抗体価の陽性率は60-70%程度と言われており、陰性例でも年間10％程度が陽転化すると報告されています。特に陰性例においては半年ごとにJCV抗体過を測定し、陽転した場合にはそのPMLリスクを再評価する必要性がありますが、陰性が確認されている間は比較的安全にナタリズマブ投与が継続可能であると考えます。
4つ目はNTZ-PMLは無症候性の時期に発見、対応ができれば予後が良い可能性が示唆されており、特に投与開始から2年以上経過し、PMLリスクが高いと考えられる症例においては3-4ヶ月毎のMRI検査が推奨されています。自施設ではJCV抗体陽性例については、基本的に3-4か月毎のMRI検査を実施しています。
② 過敏症
添付文書では3.6％と記載されています。ヒト化モノクローナル抗体製剤であるナタリズマブでは、注射部位反応としての発赤・腫脹、注射直後反応および後反応として頭痛、浮動性めまい、嘔気、悪寒、全身倦怠感、蕁麻疹などが報告されており、アナフィラキシーショックは0.2％に認めたと報告されています。投与中、投与後1時間までのバイタルサインチェックを実施し早期発見に努め、必要時ステロイドや抗アレルギー剤の投与も検討します。
③ その他の感染症
添付文書では11.9％に認められると記載されており、上気道炎や尿路感染症が主ですが、重篤な感染症としては、ヘルペス感染症（単純ヘルペス髄膜炎、ヘルペス脳炎、帯状疱疹、急性網膜壊死）とクリプトコッカス症の報告があることは認識しておくべきかと思います。
④ 中和抗体の産生
経過中に新規に過敏症が出現した場合や、治療効果が減弱した場合に、ナタリズマブの中和抗体が出現している可能性があります。中和抗体が持続陽性となる症例（6週間以上の測定間隔で2回以上検出）は～10％と報告されており、持続陽性例では治療継続が困難と考えられます。中和抗体測定についてはバイオジェン・ジャパンが検査協力してくれます。
⑤ ウェアリング・オフ現象
ナタリズマブ投与3～4週間から、疲労感や痛みなどの不調が出現し、投与によって速やかに軽快する現象が～50％の患者に認められると報告されています。元来の標準的な4週間隔投与で症状が軽快する可能性はあるのかもしれませんが、PMLリスクを考えると実施が難しく、現状では有効な対処法はありません。
【オファツムマブ（ケシンプタ）】
① 感染症
基本的に、B細胞除去療法単独での重症感染症リスクはかなり低いと考えられていますが、添付文書では重大な副作用として感染症は15％、主に上気道感染（上咽頭炎、上気道感染、インフルエンザ）が認められると記載されています。重篤な感染症については、臨床試験では2％程度と報告されていますが、5年間の使用成績においては経時的にも重症感染症や悪性腫瘍の発生率は増加しないことが報告されています。
先行するリツキシマブなどの他のB細胞除去療法では、サイトメガロウイルス感染症、水痘・帯状疱疹ウイルス感染症、播種性単純ヘルペスウイルス感染症、カリニ肺炎などのウイルス感染症や日和見感染症、またPMLも報告されていますが、オファツムマブではこれまでに報告がありません。対象疾患が異なる点、併用薬や治療歴が異なる点、投与経路や投与量が異なる点、リツキシマブでは～25％程度に認められる遅発性好中球減少がオファツムマブでは認められていない点など、複数の要因がオファツムマブの感染症リスクを低減させている可能性も考えられますが、B細胞除去療法というカテゴリーではこれらのリスクがあるかもしれないことを念頭に置いた経過観察が望ましいと思います。
また、感染症リスクに関連して、リツキシマブでは～40％に低ガンマグロブリン血症の報告がありますが、オファツムマブでは5年間の使用成績においてIgG、IgMの平均値は正常範囲にとどまったことが報告されています。5年間でIgGに明らかな低下傾向は認められていませんが、IgMは経時的に低下しているため、更に長期間の投与においてはIgM優位の低ガンマグロブリン血症をきたしうる可能性は念頭に置くべきかと思います。
低ガンマグロブリン血症、特にIgGの低下は感染リスクの悪化につながるため、治療開始前に既にガンマグロブリンが低下している症例や、低ガンマグロブリン血症をきたしうる併用薬を用いている症例では、さらに慎重な経過観察と補充療法などの対応が必要となる場合があると考えます。
先行するリツキシマブなどのB細胞除去療法と同様、B型肝炎の再活性化への懸念があるため、治療開始前から「免疫抑制・化学療法により発症するB 型肝炎対策ガイドライン」に沿った対応を行います。
② 注射に伴う全身反応
添付文書では発熱、頭痛、筋肉痛、悪寒、疲労等の注射に伴う全身反応が20.6％に認められたとされています。多くが軽度から中等度で、初回投与時が最多、2回目以降の投与時には軽減すると報告されています。初回投与時には、こうした全身反応を軽減する目的で、ステロイドやアセトアミノフェン、抗ヒスタミン薬などの前投薬投与を行い、慎重に観察します。
③ ワクチン効果の減弱
B細胞除去療法下ではワクチン投与後の抗体産生が低下することが知られています。必要なワクチンは理想的には投与開始6週間前までに接種することが望ましいとされており、生ワクチンまたは弱毒生ワクチンは遅くとも4週間前までに、不活化ワクチンは遅くとも2週間前までに接種することが推奨されています。中止後にB細胞数が回復するまで、生ワクチンの接種は避けるようにします。
以上、患者さんを診療する上で、個人的に大事かなと思うMS-DMDの副作用、注意点についてお話ししました。先述の通り、これがすべてではありませんので、先生方の知識や臨床経験とあわせてご参考にしていただければ幸いです。

MSの各疾患修飾薬を使用する際の注意すべき事柄③

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