第1章：急性期脳梗塞に対するエダラボンの脳保護効果に関するエビデンス
急性期脳梗塞における虚血性神経細胞障害には、さまざまな病態メカニズムが関与しています。その一つとして、フリーラジカルの過剰産生と、それに伴う細胞障害が挙げられます4)【図1】。エダラボンは、脳虚血周辺領域で大量に生成されるフリーラジカルを速やかに除去することにより、神経保護効果を発揮する薬剤です。エダラボンが急性期脳梗塞に対する脳保護薬として承認された根拠は、2003年に報告された国内第Ⅲ相試験の結果に基づいています。この試験では、発症後72時間以内の虚血性脳卒中患者を対象に、エダラボン群とプラセボ群を比較した結果、エダラボンを投与された群で予後の有意な改善が認められました5)。さらに、層別解析においては、発症24時間以内に治療を開始した患者群で、より高い有効性が確認されており、この結果を踏まえて、発症24時間以内での使用が推奨されるようになりました。Cochrane Reviewによる統合解析においても、エダラボンは対照群と比較して神経学的転帰を改善することが示されています（相対リスク1.99、95％信頼区間［CI］1.60–2.49）6)。さらに、近年実施されたメタ解析においても、エダラボン治療群はプラセボ群と比較して、90日後の良好な機能転帰（オッズ比［OR］1.31、95％CI 1.06–1.67）および優れた機能転帰（OR 1.26、95％CI 1.04–1.54）と有意に関連し、また死亡率の有意な低下（OR 0.50、95％CI 0.45–0.56）とも関連することが示されています7)。
もっとも、これらの研究の多くはアジア地域における観察研究に基づいており、質の高いランダム化比較試験（RCT）は限られています。そのため、研究デザイン上の制約やバイアスの影響を考慮する必要はありますが、急性期脳梗塞に対するエダラボンの一定の有効性が示されていることは確かです。
第2章：急性期再灌流療法と脳保護療法の併用効果
急性期脳梗塞に対する標準治療として、recombinant tissue plasminogen activator（rt-PA）静注療法による再灌流療法が確立されています。しかしながら、再灌流に伴う虚血再灌流障害（ischemia-reperfusion injury）では、フリーラジカルの過剰産生やマトリックスメタロプロテイナーゼ-9（MMP-9）の発現亢進が誘導され、これによりneurovascular unit（NVU）の破綻、脳浮腫、さらには出血性転化の進展に関与することが示唆されています8)。このような再灌流による副作用を抑制しつつ、治療効果を最大限に引き出すための方法として、脳保護療法との併用が注目されています。なかでも、エダラボンとの併用は有望な選択肢とされています。実際、複数の臨床研究において、rt-PAとエダラボンを併用した群では、良好な臨床転帰が報告されています9)10)11)。さらに、併用療法の効果を検討したメタ解析では、rt-PA単独群と比較して、エダラボン併用群のほうが有意な神経学的改善（平均差3.95、95％CI 2.92–4.99）を示し、頭蓋内出血の発生率も有意に低下したことが報告されています（オッズ比［OR］0.44、95％CI 0.29–0.66）12）。このような臨床効果の背景には、フリーラジカル除去作用を介した血管内皮機能および神経血管ユニット（NVU）の保護作用が関与していると考えられます。実際、出血性脳梗塞モデルを用いた基礎研究においても、エダラボンは脂質過酸化やMMP-9の発現を抑制し、NVUの破綻を軽減することにより、出血性転化を防止する効果が示されています13)【図2】。
また、rt-PAとエダラボンの併用における最適な投与タイミングについても検討が進められており、その一環として多施設共同のRCTであるYAMATO Study（Tissue-Type Plasminogen Activator and Edaravone Combination Therapy）が実施されました14)。本試験では、エダラボンをrt-PA投与前または投与中に併用することで、早期再開通率の向上および出血性合併症のリスク低減が可能であるとの仮説のもとに検証が行われています。その結果、rt-PA投与前または投与中にエダラボンを併用した群と、rt-PA投与後にエダラボンを投与した群との間で、症候性頭蓋内出血の発症率、再開通率、ならびに機能予後に有意な差は認められませんでした。このことから、エダラボンの投与時期は臨床成績に大きな影響を与えないと考えられ、投与タイミングには一定の臨床的な柔軟性が許容されるといえます。血管内治療に関しては、後ろ向き研究ではありますが、血管内治療後早期（入院後2日以内）にエダラボンを投与した群では、非使用群と比較して、機能的自立度の向上、院内死亡率の低下、頭蓋内出血の減少が報告されています15)。
現時点では、急性期再灌流療法に対するエダラボン併用の有効性については、さらなる検証が必要であり、議論の余地も残されています。とはいえ、これまでに蓄積されたエビデンスは、エダラボンの神経保護作用を活かした併用療法が、実臨床において重要な治療戦略の一つとなり得る可能性を示唆しています。
&lt;img src="https://medixpost-article-images.s3.ap-northeast-1.amazonaws.com/22ce0d66-267e-4167-ba84-bfae6f34d63b/20250510101319-%E3%82%A8%E3%83%80%E3%83%A9%E3%83%9C%E3%83%B3%E3%80%80Figures.jpg" /&gt;&lt;img src="https://medixpost-article-images.s3.ap-northeast-1.amazonaws.com/22ce0d66-267e-4167-ba84-bfae6f34d63b/20250510101334-%E5%9B%B32%20%E3%82%A8%E3%83%80%E3%83%A9%E3%83%9C%E3%83%B3.jpg" /&gt;
文献
4) 桂研一郎．脳梗塞急性期の治療 脳保護療法．神経治療．2008；25：537–543．
5) Edaravone Acute Infarction Study Group. Effect of a novel free radical scavenger, edaravone (MCI-186), on acute brain infarction: randomized, placebo-controlled, double-blind study at multicenters. Cerebrovasc Dis. 2003;15:222–229.
6) Feng S, Yang Q, Liu M, et al. Edaravone for acute ischaemic stroke. Cochrane Database Syst Rev. 2011;12:CD007230.
7) Fidalgo M, Pires JR, Rodrigues FB, et al. Edaravone for acute ischemic stroke: a systematic review and meta-analysis. Clin Neurol Neurosurg. 2022;219:107299.
8) Liu KJ, Rosenberg GA. Matrix metalloproteinases and free radicals in cerebral ischemia. Free Radic Biol Med. 2005;39:71–80.
9) Kono S, Deguchi K, Morimoto N, et al. Intravenous thrombolysis with neuroprotective therapy by edaravone for ischemic stroke patients older than 80 years of age. J Stroke Cerebrovasc Dis. 2013;22:1175–1183.
10) Wada T, Yasunaga H, Inokuchi R, et al. Effects of edaravone on early outcomes in acute ischemic stroke patients treated with recombinant tissue plasminogen activator. J Neurol Sci. 2014;345:106–111.
11) Kimura K, Aoki J, Sakamoto Y, et al. Administration of edaravone, a free radical scavenger, during t-PA infusion can enhance early recanalization in acute stroke patients: a preliminary study. J Neurol Sci. 2012;313:132–136.
12) Hu R, Guo Y, Lin Y, Tang Y, et al. Safety and efficacy of edaravone combined with alteplase for patients with acute ischemic stroke: a systematic review and meta-analysis. Pharmazie. 2021;76:109–113.
13) Yamashita T, Kamiya T, Deguchi K, et al. Dissociation and protection of the neurovascular unit after thrombolysis and reperfusion in ischemic rat brain. J Cereb Blood Flow Metab. 2009;29:715–725.
14) Aoki J, Kimura K, Morita N, et al. YAMATO study (Tissue-Type Plasminogen Activator and Edaravone Combination Therapy). Stroke. 2017;48:712–719.
15) Enomoto M, Endo A, Yatsushige H, et al. Clinical effects of early edaravone use in acute ischemic stroke patients treated by endovascular reperfusion therapy. Stroke. 2019;50:652–658.

急性期脳梗塞に対するエダラボンの有効性と課題：第1章、第2章

Medixpostとは