大学院では片頭痛の病態に関して脳波を用いた研究をしておりました。
一次性頭痛に関心があります。

最近のScience誌で、片頭痛の病態に関する研究が報告されていましたので紹介させていただきます。これまで、片頭痛の発症に伴って放出されたCGRPなどの神経ペプチドは硬膜などに分布する三叉神経を感作し、順行性に三叉神経節の神経細胞が活性化して頭痛が引き起こされるという説明が主でした。本研究ではこの従来認識されていた経路とは別に、CSD（皮質拡延性脱分極/抑制）によってCSF中に放出されたCGRPなどのタンパク質がCSF flowというnonsynapticな経路によって三叉神経節を活性化して頭痛を引き起こすことを片頭痛モデルマウスを用いて示したものです。
<a href="https://www.science.org/doi/10.1126/science.adl0544">Trigeminal ganglion neurons are directly activated by influx of CSF solutes in a migraine model | Science</a>
<a href="https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38963846/">Trigeminal ganglion neurons are directly activated by influx of CSF solutes in a migraine model - PubMed (nih.gov)</a>
 
本論文の結果から示唆される片頭痛での三叉神経節活性化の経路は以下のようなものと思われます。理解不足で細かい点誤りもあるかもしれませんので、詳細は上記論文をご参照ください。
・大脳皮質でCSDが発生すると、皮質へのCSF流入が増加するとともに、炎症性メディエーターなどの物質（CGRPやPACAPなど）の転写がアップレギュレートされ、CSF中に放出される。
・これらの物質は中枢神経系からCSF flowによる液性シグナル伝達経路によって、三叉神経節細胞外スペースに輸送される。実際に、前兆の発生部位として最も一般的な視覚野に髄液トレーサーを注入すると、同側の三叉神経節周辺に髄液トレーサーが蓄積することが観察された。トレーサーを注入してから三叉神経節で検出されるのに要した時間は33.4±4.4分で、片頭痛患者で前兆発生から頭痛の出現までの時間差としても矛盾しない。
・一般に、頭蓋外の末梢神経ではタイトジャンクションによって神経細胞細胞外スペースに外部の溶質が侵入するのを防いでいる。一方で三叉神経節近位部はアクアポリン-４に対する免疫染色で中枢神経系の延長であることが示され、ここではCSFに対するタイトバリアが欠如して、溶質が自由に三叉神経節細胞外スペースへ流入することができる（これまではCSFはnerve sheathの外側を流れて神経節に流入することはないと考えられていた）。そのため、これらの物質が三叉神経節に存在する受容体に結合することで三叉神経の活動を活性化し、頭痛を引き起こす。
 
【コメント】
本論文は前兆のある片頭痛の病態として、中枢神経系と末梢神経系との間のこれまで知られていなかった非シナプス性経路による末梢感作の存在を示すもので、片頭痛の基礎的病態に関する大変興味深い内容と思います。このようなCSFの組成変化が末梢神経系に作用する仕組みは、片頭痛のみならず外傷後頭痛など他の頭痛疾患、ひいては他の神経疾患のおいても関与している可能性もあるのではないかと想像をさせる点でも大変面白い研究のように思いました。また、筆者らは今回の研究でCSF中に見いだされた物質およびレセプターの役割を明らかにすることで、新たな治療ターゲットの発見につながるかもしれないと述べており、その点でも重要な研究結果ではないでしょうか。

片頭痛における三叉神経系活性化のCSFを介した新しい経路の発見（Science. 2024 Jul 5）

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