現在市販されている抗認知症薬は大きく二種類に分類することができます。すなわち、コリンエステラーゼ阻害薬(ドネペジル、ガランタミン、リバスチグミン)と、NMDA受容体の拮抗薬であるメマンチンです。認知症専門医として、アルツハイマー型認知症の患者さんにおいてこれらの薬剤をどのように使い分けているかを私見で3回に分けてまとめてみたいと思います。
1)「認知症の治療」とは何か
認知症を根治させるような治療が生まれればいいのですが、現状使えるどの抗認知症薬にもその能力はありません。また、MMSEの点数が上がれば認知症の治療が成功していると言えるわけでもありません。投薬によって例え点数は上がっても、興奮性が増して家族の介護負担が増えているというケースも多いのです。従って、認知症の治療とは何を意味するのか、というのは難しい問題です。私の定義する「認知症の治療」とは、「認知症を持っていることによる生きづらさを軽減する」ことです。この意味では、医療のみならず、介護、看護の力も、「認知症の治療」として重要であることを最初に申し述べておきます。
2)アクセルとブレーキのイメージ
コリンエステラーゼ阻害薬は、脳内のアセチルコリン(リバスチグミンはそれに加えてブチリルコリン)の分解を防ぐことによって、脳内のアセチルコリン量を増加させる治療薬です。アセチルコリン系は中枢において記憶と覚醒、認知に関係していますから、ここを賦活することはアクセルを吹かして覚醒度を上昇させているようなものです。従って、自発性の低下や意欲の低下、ぼーっとしている印象の患者さんについては、コリンエステラーゼ阻害薬を軸に治療を始めることを考えます。
一方、NMDA受容体の拮抗薬であるメマンチンは、投与することによってグルタミン酸による神経の過興奮、神経毒性を防ぐ作用があるわけですが、実際に患者さんに投与すると精神的に落ち着いた、という声をよく聞きます。つまり、易怒性、イライラ感を抑えるブレーキのイメージを持って私は使用しています。
従って、初診の時から易怒性、イライラ感による介護困難が主な相談事項の場合には、コリンエステラーゼ阻害剤に優先してメマンチンを処方する場合もしばしばあります。こうしたケースに自動的にコリンエステラーゼ阻害薬を処方すると、かえって興奮性が増して家族が困る、という経験もあります。一方、意欲の減退や、自発性の低下などが目立つ場合にはコリンエステラーゼ阻害剤処方の良い適応になると感じています。しかしながら、実臨床での時間では、良かれと思ってメマンチンを処方した結果、かえって興奮性を増したケースが散見されることを付記しておきます。
まとめ(イメージ)
コリンエステラーゼ阻害剤→アクセル→ぼーっとしてる患者さん
メマンチン→ブレーキ→怒りっぽい患者さん
次回に続きます。

