多系統萎縮症(MSA)の患者さんにレボドパの投与はどのように行われていますでしょうか?私も最近レボドパ反応性はあるものの,ウェアリングオフと高度なジスキネジアが問題となったMSA患者さんを経験しました.この機会に一部私見も交えて,まとめてみたいと思います.
まず,脊髄小脳変性症・多系統萎縮症診療ガイドライン2018には以下のようなことが記載されています.
1) MSA-Pのパーキンソン症候には抗パーキンソン病薬の効果が得にくく,レボドパに反応性を示すものは30~70%程度である
2) 多くの場合数年で反応性がみられなくなる
3) レボドパ反応性は可能であれば高用量まで試してから判断する
残念ながら,レボドパの実際の投与方法については言及がありません.
2022年にMovement Disorders Societyが発表した新しいMSA診断基準によると,忍容性があれば1000mgのレボドパで反応性を評価することを推奨しています.なお,急性のレボドパ負荷試験はMSAの早期診断には推奨されていません.
実際の投与方法について,例えばQueens Squereのグループは,レボドパの慢性投与を62.5mgを1日3回から開始し,2週間ごとに62.5~125mgずつ増量.250mgを1日4回として,3~6ヶ月間の観察を行っているとレビューで記載しています.このグループはMSA診断基準にも関わっており,診断基準と矛盾のない方法です.
https://pn.bmj.com/content/23/3/208.longpn.bmj.com
では,日本ではどうでしょうか?本邦からの大規模前向きMSAコホート研究によると,ベースライン時にレボドパを使用していた症例は69/184例(37.5%)で,平均レボドパ投与量は406.7mg/日でした.レボドパの使用頻度は時間とともに増加したと記載されていますが,具体的な投与量のデータは見つけられませんでした.
https://bmjopen.bmj.com/content/11/2/e045100.longbmjopen.bmj.com
また,進行期における注意深い観察や出口戦略も重要です.ヨーロッパの141例のMSAを対象とした前向きコホート研究では,MSA-P患者の43%,MSA-C患者の13%でレボドパ反応性があり,平均3〜4年間持続しました.ウェアリングオフが23%で観察されるとともに,レボドパ反応性患者の11%にpeak-dose dyskinesiaも認められました.この研究からも,ウェアリングオフやジスキネジアはPDに限ったものではなく,MSAでも認められることが分かります.また,MSAではドパミン神経のプレシナプスだけでなく,ポストシナプスの神経脱落も生じるため,進行期にドパミン反応性が乏しくなります.その場合にはレボドパの減量も選択肢となると思います.
https://www.thelancet.com/journals/laneur/article/PIIS1474-4422(12)70327-7/fulltextwww.thelancet.com
まとめると,MSAにおけるパーキンソニズムに対しては,積極的にレボドパ治療を行う価値があります.効果が不十分な場合,海外では1000mgを目指すことが提案されています.ただ,私の臨床では日本人患者さんは忍容性の問題で300~600mg/日くらいまでの増量に留めることが多いです.これは,上述の日本のコホート研究の平均投与量が406.7mg/日であったことと一致するように思います.ウェアリングオフやジスキネジアはPDに限ったものではなく,MSAでも認められることに注意が必要です.進行期に反応性が乏しくなった際には漫然と高用量での投与を継続せず,特にレボドパの副作用が生じていると疑われるような場合は減量も検討すべきと考えます.
